No.082
ロンドンの秋の鳥たち


大英博物館前にて
 子連れ留学する娘から生後7ケ月の孫の世話を頼まれ、9月19日から1ヶ月余りロンドンに滞在した。初めの1週間はぐずった時の扱いが分からず悪戦苦闘、美術館巡りと探鳥に釣られ安請け合いしたのを後悔する。それでも2週目には乳母車に乗せ大英博物館を見学したり、近くの公園で探鳥する余裕が生まれる。
 ロンドンは二度目で公園に多くの野鳥がいるのは知っていたが、他にどのような探鳥地があるのか分からない。書店で見つけた"Where to watch birds in the London area" と"Complete British Birds"を手がかりに、子守から解放される土日を中心に探鳥を開始する。
 先ずは Regent's Park、Hyde Park、St James's Park など市内の大公園を回る。中央部にある大きな池にガンやカモの仲間が集結、中でもカナダガン、ハイイロガン、マガンが大きな群れで飛来している。日本でも普通に見られるマガモ、オカヨシガモ、ホシハジロ、キンクロハジロなども多い。オオバンとバンも同様である。数は少ないが日本にはいないエジプトガン、カオジロガン、アカオタテガモ、アメリカオシなどにも出会う。


ハイイロガン

 Regent's Park には一ヶ月後にも訪れたが、オナガガモ、コガモ、アメリカヒドリ、ホオジロガモ、珍鳥のアカハシハジロ、メジロガモ、アカツクシガモなどが加わる。淡水性のカモはほぼ出揃ったようである。カモメではユリカモメが圧倒的に多いが、セグロカモメ、ニシセグロカモメ、キアシセグロカモメが少しずつ混じる。水鳥以外ではヨーロッパコマドリとクロウタドリが常連で縄張りを主張するのか随所で姿を現す。シジュウカラ、エナガ、ゴジュウカラ、日本にはいないアオガラなどが混群で忙しく動く。街中でも見かけるカササギがよく目立ち、カケスも時たま見かける。ハシボソガラスは所々で群れているが日本と比べて少ない。


アカハシハジロ


ヨーロッパコマドリ

 次は郊外の大公園で探鳥地としても有名な Hampstead Heath、Trent Country Park、Brent Reservoir を訪問、いずれもロンドン中心部から地下鉄または電車で2〜30分である。広大な野原や公園として整備された広場では散歩やジョギングが楽しめ、池やヒースに囲まれた森は野鳥の生息に配慮しあまり手をかけずに残している。ここでもガンやカモの仲間が揃っているが、チョウゲンボウ、アカゲラなど日本でもなじみの鳥たちに出会う。ハシボソガラスに加えコクマルガラスが混じる。タヒバリの仲間にも一瞬出会うが識別不可(ヨーロッパビンズイ/マキバタヒバリ?)。春・夏の繁殖期や冬鳥の出揃う頃はさぞかし賑やかであろう。


チョウゲンボウ

 次は London Wetland Center を訪ねる。ここも地下鉄とバスで40分ほど。Thames 川沿いの低湿地に作られた新しい水鳥の観察地で、春から夏にかけてシギやチドリなどが繁殖するようである。ガンやカモ類は他と同じであるが、カンムリカイツブリやカワウに出会う。餌場に集まるシジュウカラ、日本では珍しいズアオアトリなどを観察小屋から眺める。ただ、水鳥は外国からの移入種も混在するので要注意である。これは前記の公園の水鳥も同じである。
 植物園も野鳥の観察地として見逃せない。世界遺産にもなっている Kew Gardenには広大な敷地の一部に観察小屋を備えた野鳥保護地がある。時期的に種類は少ないが、既出の小鳥に加えコガラ、マヒワ、キクイタダキなどに出会う。大きな池があり顔なじみのガン・カモ類が集結、日本では(イギリスでも)珍しいオオホシハジロに出会う。


Kew Garden

 オックフォードの Botanical Garden は水路沿いにある美しい植物園である。ロンドンから北に100キロ離れており鳥相の変化を期待したが、コマドリ、クロウタドリなど既になじみの鳥中心で種類もやや少ない。ホシムクドリの群れが教会の尖塔を足場に飛び交う。St.Mary 教会の塔から眺める町並みと周辺の牧歌的な風景はハリーポッターの世界と重なる。実は、オックフォードを訪問したのはヨーロッパアマツバメが営巣する University Museum の塔を見るためである。日本では北海道や本州の高山に夏鳥として渡ってくるアマツバメの近縁種である。生態を解明するため高さ30メートルの塔頂の通風孔での営巣を10年間に亘り観察し、その結果は「天上の鳥アマツバメ」と題する本で日本にも紹介されている。9月初旬にアフリカに向け飛び立った後であるが、係りの人によると今年も130羽の鄙が孵ったそうで、塔周辺をチリー チリーと甲高く鳴きながら飛び交う姿を想像する。


University Museum

 今回、1ケ月余りの滞在でロンドン近辺の鳥68種を観察した。識別不能や見落としを考慮しても小鳥の種類が意外と少なかった。暖冬で冬鳥の到来が遅れているのだろうか。スズメの仲間に一度も出会わなかったのも意外。農業形態の変化で穀類のおこぼれ減少が原因とか。野生化したインコ(Ring-necked Parakeet)が増えているようだが在来種との関係はどうか。ロンドンの鳥たちもまだまだ分からないことが多く、この次は春か夏に訪れたい。その際は Minsmere など有名な探鳥地がある東海岸に是非とも足を伸ばしたい。
(06.10.31)


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